遺言書保管制度とは、令和2年7月10日に運用が始まった「自筆証書遺言」を法務局に保管してもらう制度です。
自筆証書遺言は遺言者が手書きで作成した遺言書となりますが、保管中の紛失・改ざんの可能性が問題となり、利用しにくい面がありました。
そこで新設されたのが、この法務局での遺言書保管制度です。
遺言書の方式
遺言書の方式は大きく分けて自筆証書遺言と公正証書遺言の二種類があります。
自筆証書遺言(民法968条1項)
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
公正証書遺言(民法969条)
公正証書によって遺言をするには、証人二人以上の立会いがあり、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授し、公証人が遺言者の口述を筆記すること等が必要。
自筆証書遺言の保管制度のメリットとデメリット
- メリット
1 公正証書遺言より費用が安い
2 家庭裁判所での検認が不要
3 紛失・改ざんの可能性がない - デメリット
1 遺言者本人が法務局へ出向く必要がある
2 遺言内容について専門家によるチェックがない
3 作成後の氏名・住所変更を届け出る必要がある
公正証書遺言のメリットとデメリット
- メリット
1 専門家によるチェックがある
2 家庭裁判所の検認が不要
3 紛失・改ざんの可能性がない
4 遺言者本人が出向くことなく手続きが可能 - デメリット
1 自筆証書遺言より費用がかかる
費用をかけずに遺言書を作成したい場合や遺言内容が決まっている場合で、ご自身が法務局へ出向くことが可能な方は自筆証書遺言の法務局での保管制度の利用が適していると考えられます。
自筆証書遺言の保管申請場所と必要書類等
遺言書の保管申請を行う保管所(法務局)は以下のいずれかとなります。
1 遺言者の住所地の遺言書保管所
2 遺言者の本籍地の遺言書保管所
3 遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所
※申請には遺言者本人が法務局へ出向く必要があります。
※事前に手続き利用の予約をした方がスムーズです。
遺言書の保管申請時に必要となるものは以下の通りです。
1 遺言書(無封、ホチキス止め不要)
2 遺言書の保管申請書
3 添付書類(遺言者の住民票、戸籍謄本・附票等)
4 手数料分の収入印紙(3,900円分)
5 印鑑(シャチハタ、スタンプ印以外のもの)
6 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証等)
※遺言書が外国語の場合は、日本語翻訳文が必要となります。
このような場合は特に遺言書が必要
- 夫婦間に子供がいない
→被相続人(亡くなられた方)の配偶者の他に、その方の兄弟姉妹が相続人となる可能性があります。
この場合、配偶者と兄弟姉妹で遺産分割協議をする必要があります。 - 内縁関係にある方に遺産を残したい
→内縁関係にある方には相続権がありません。
遺言書を残さなければ財産を渡すことができず、相続人の遺留分に配慮した内容とする必要があります。 - 介護をしていた方に相続権が無い
→生前にお世話をされていた方に財産を渡したい場合は遺言書を作成する必要があります。 - 相続人同士でトラブルとなる可能性がある
→相続人間で仲が良くない場合に被相続人の思いや財産の配分基準を示すことで相続人同士の遺産分割協議がまとまりやすくなる可能性があります。 - 音信不通の相続人がいる
→遺産分割協議は相続人全員が参加する必要があります。
このような場合は不在者財産管理人を選任する必要があり、相当期間と費用がかかります。
遺言書があることで相続に関する無用なトラブルを回避できるだけに限らず、相続に関する手続きをスムーズに進めることができ、相続人の負担を軽減することができるため、遺言書の作成は非常に重要です。
相続対策で大事なことは対策のできるうちに、早めに対策をすることです。
自筆証書遺言の作成及び法務局での保管申請をお考えの方は法律事務の専門家である司法書士へご相談ください。